グランドセイコー60周年を彩るコンプリケーション、「T0 コンスタントフォース・トゥールビヨン」。
WMOでは、速報としてニュースと恒例の「推測」記事を掲載いたしました。
その「答え合わせ」と、“どのような方がどんな考えでこれに至ったのか?”を知りたいと思い、開発者の川内谷 卓磨(かわうちや たくま)氏へのインタビューを行い、開発に至った経緯や、気になる精度などを伺いましたのでレポートいたします。
――経歴と今まで取り組んできた作品について教えてください。
『時計学校の東京ウォッチテクニカム(現在は閉鎖)を卒業後、2010年にセイコーに入社し、9SA5の新型脱進機の開発も手掛けた研究開発チームに参加しました。主に関わったキャリバーは9SA5とT0になります。』
――T0の開発はどのくらいの期間・規模で行いましたか?
『2012年に開発がスタートし、実は2019年には評価が完了しているので、7年間という事になります。』
――このような作品を開発するに至ったきっかけは何でしょうか?
『9SA5の基礎開発と並行して、開発チーム内で今までにない機構を開発するという野心的なプロジェクトが立ち上がり、色々なアイディア出しを行い、2012年に基礎となるトゥールビヨンとコンスタントフォースを完全に一体化した構造を考案しました。セイコーの技術ならやれそうだし、面白いのでやろうという事になり、まずは香箱と表示のみの検証機を作ることにしました。
検証機で各種特性を測ったところ、振り角も安定し姿勢差も小さくなることが分かり、この機構の性能が良いことが分かりました。そのため、ちゃんと時計の形にまとめたいと思い、研究開発の予算を取得してムーブメントの形にすることにしました。
当初はグランドセイコー60周年とは関係ない研究プロジェクトとしてスタートしましたが、グランドセイコーの高精度という方向性と合致したことから、今回このような形で発表しました。』
――関連特許はどれぐらい取得されましたか?
『メインの部分の特許は2つに分けて取得しています、図は一緒ですが、機能によって分けています。この特許は海外含めて登録になっています。そのほか、周辺特許は3件申請し、2件が登録になっています。』
【T0のテクニカル面について】
――プレスリリース以外で「ここは!」と思うポイントがありましたらお伺いできますか?
『コンスタントフォースの動作原理を考えるとストップ車の摩擦を厳密に管理しないと真の意味でコンスタントにはならないのですが、摩擦係数を直接的な方法で測定するのはなかなか難しかったのです。そこで発想を逆転し、試作機を作り、その測定結果から逆算で求めることにしました。
まず仮の値で設計し、パワーリザーブ50時間のうちに振り角が上がったり下がったりする測定の結果からフィードバックしてより正確な値にすることで、最終的には50時間の振り確保ほぼ一定にすることができました。オリス時計の評判このような方法で正確な摩擦を求めたのは前例がないと思いますので、ポイントのひとつかと思います。』
――コンスタントフォース部分は無注油なのでしょうか?
『注油しています。』
――精度に関する情報、ISO3159基準またはGS規格での測定値があればお伺いしたい。
『残念ながら現状は数値として出せるものは限られています。
現在はN=1、すなわち1個の測定結果しかなく、その結果は非常に良いのですが、やはり量産メーカーとしてはその一個のデータ(チャンピオンデータ)だけで、”こんなに良いです!”と宣伝するわけにはいきませんので。
ただ、一つだけ公開できる値として、携帯試験で、毎日朝つけて出勤、仕事をして帰って24時間ごとに基準とのズレを測定するということを2週間続けた結果として、日差のバラつきは±0.5秒ほどでした。
これを1年続けた場合は、おそらく気温の影響が出てくるので、これよりも範囲が広くなるとは思いますが、2週間で±0.5秒と言うのは出そうと思って出せる物ではないので、ポテンシャルの証明にはなると思っています。』
――ISO3159基準での日差のみで、日較差は求めていないのでしょうか?
『測定はしていないため正式な値としてはいませんが、日差が±0.5秒なので、そこから求まる範囲です。ただし、あくまで、N=1の結果という事をご承知願います。』
――という事はこのムーブメントは1つしかないのでしょうか?
『今回の発表にあたって、試作品から主に見た目の仕様を変えて作り直しているので「T0」と呼んでいる個体については2つあります。先程の携帯試験は一つ前の試作機で測定した値になります。ただ試作の規模も小さく、セイコーの通常の量産製品とは異なる性質です。』
――パワーリザーブとコンスタントフォースが有効な範囲は?
『パワーリザーブは72時間以上ですが、コンスタントフォース脱進が働く範囲が50時間で、パワーリザーブが尽きる直前で二つのキャリッジが完全に一体化して回る状態とコンスタントフォースでステップ運針する状態の間には、ある意味中途半端な脱進音が聞こえないけどややステップ状に動く状態が存在します。
この状態ではストッパが外れても香箱トルクが小さいため、次の停止位置までは進まず中途半端な位置で止まります。』
――巻き止めはありますでしょうか?
『巻き止めはなく、完全にトルクが抜けるまで香箱が回転します。』
――向かって左側の香箱に取り付けられている遊星歯車機構の役割について
『パワーリザーブ計測のための機構で、ゼンマイの巻き量と解けた量を計測しています。
遊星歯車機構を使ったのは、今回デザイン的にシンメトリーの綺麗さを表現したいという狙いがあり、右側の香箱の日の裏車を回すための中間車と対象になるようなデザインにしたかったからです。』
――コンスタントフォースを無効化(直結化)した状態での検証はしていますか?
『コンスタントフォースを直結にしてトゥールビヨンだけの検証というのはしていませんが、オーデマピゲ スーパーコピーパワーリザーブ期間中で6姿勢の歩度がどのように変化するかという測定は行っています。
コンスタントフォースが効いているときの縦姿勢差と効いていない時の縦姿勢差を測定すると3倍ぐらいの開きがあり、コンスタントフォースの効果が表れていることを確認できています。』
――個人的に気になった点として、天文台クロノメーターと考えるとスケルトンよりも、もっとがっちりの方が良いのではと思ったのですが…
『このデザインは私の好みです。
機械式時計の歯車の動きの面白さを最大限味わえるようにできる限り抜きました。
しかし、地板は厚く、歯車が収まるところには充分な強度を持たせて不必要には抜いていません。もちろん、落下解析・試験も行っており、華奢には見えますが充分な強度を持たせております。』
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