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ハンデルゴシックという書体を見たことがある人は多いと思う。


この映画はフランスのヌーヴェルヴァーグの監督、フランソワ・トリュフォーが主演していた。

 この書体は、専門用語でいえば、幾何学的なサンセリフ書体だ。セリフとは、印刷された数字や文字の端によく見られる装飾的な小さな突起のこと。サンセリフ書体はもともと視認性が美しさより必要な場合、例えば看板などに使用されており、それがグロテスクやネオグロテスク書体と呼ばれるようになった。最も有名で広く使われているのはヘルベチカ(グロテスクと呼ばれるにふさわしいという人もいるが、個人的には醜いというよりも使い古されていると思う)だろうが、これらの書体には、安価なクォーツ時計に似合う小気味よく飾り気のない雰囲気がある。

 ハンデルゴシックは、ヘルベチカと間違えやすいが、文字が横に少し伸びていて、未来的な雰囲気があるため、1970年代から1980年代にかけて人気を博したフォントである。このデザインは、デザイナーのソール・バスのスタジオで働いていたドナルド・ハンデルが制作したもので、1972年にワーナーブラザース・スタジオのロゴのために作られたのを皮切りに、「セサミストリート」のエンドクレジット、「スター・トレック:ヴォイジャー」や「スター・トレック:ディープ・スペース・ナイン」のクレジットなど、さまざまな場所で使用されている。最も有名な使用例は、「未知との遭遇」のロゴであろう。


 数年前、デザイナーである友人から『The Design Of Everyday Things』という本をもらった。この本の核心は、「日用品は偶然そうなっているのではなく、誰かが意図的に決めたからこそ、全てがそうなっている」ということだった。どこかの誰かが、安価なクォーツ時計をデザインするという課題を考え、できるだけ読みやすくするという問題に対する最適な解決策として、ハンデルゴシックを選択したのだ。その結果、手頃な価格にも関わらず、レトロモダンの魅力的な雰囲気をもつ時計ができあがったわけである。これは意図的されたものだと思いたい。この時計は、モダニズムデザインの思いがけない小さな結晶であり、そこに込められた思いは、遠い星からの予期せぬ電波のように、遠く離れていても安心できる知性の証なのだ。

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